アツイシャ

メカ好きのプログラミング少年が、 治療と開発で患者の人生に寄り添う医師となるまでの軌跡。

【PROFILE】

医療法人社団医新会 理事長 眼科専門医
医療ICTシステム開発企業経営/新見 浩司

1991年兵庫医科大学卒業後、同大学眼科学教室に入局。眼科学教室助手を経て、協和会協立病院眼科医長、愛仁会千船病院眼科医長を歴任。1999年に新見眼科を開設し、2006年に法人化して医療法人社団医新会理事長に就任。現在、医新会の5施設の他、メガネ販売店4店、ICT関連企業2社、保育所2所、飲食店2店を運営する経営者でもある。著書に「最新鋭 白内障手術(リンケージワークス)」「電子カルテデータブック2005(金原出版)」「お医者さんがすすめる目の体操7日間メニュー(リンケージワークス)」等。

患者に寄り添う医療とは、
喜ばれる結果を導く技術。

新見氏が理事長を務める医療法人医新会では、兵庫県明石市、神戸市を中心に、新見眼科、フタバ眼科、レイ眼科クリニック、なかにし眼科クリニック、やまいけ眼科の5つのクリニックを運営する。眼科を訪れる患者はグループ全体で年間延べ10万人。手術件数は年間5,000件を超え、理事長である新見氏が自ら執刀する手術だけでも多い日は1日に20眼以上、年間1000眼以上に及ぶ。中でも手術ニーズが多く、新見氏も注力している白内障分野では、フェムトセカンドレーザーとデジタルマーカーおよび術中波面センサーを組み合わせた最新鋭のレーザー白内障手術システムを関西地区で初めて国内でも3番目に導入し、多焦点眼内レンズなどのより高精度な手術を望む患者の受け入れも増加しているという。



最新鋭の検査・治療機器や医療技術の導入、そして大学病院に匹敵する臨床実績の理由は、すべて新見氏の語る第一義に集約されている。「医師として、医療機関として大事にしているのは、何よりも患者さんのニーズに応えることです。まずは、最新の知見に基づいた安全安心の治療でより良く見えるように治すこと。もし治らないケースでも、患者さんが何を求めて来院されているのか、これからどう生きたいのかをお聞きして、眼科としてどのような選択肢があるのかをしっかりお話しすること。それが、患者さんに寄り添う医療だと考えています。よくスタッフから、先生いつも楽しそうに診察してますねって言われるんですが、実際に楽しいんです。診察って、患者さんの望む結果に前進するステップで、喜んでもらうための道筋ですからね」。



手術だけを考えても、患者が1,000人いればニーズも1,000種。眼科疾患の種類、進行度合い、他臓器の状況、病歴、年齢、家族構成、趣味、見えるようになったら見たいもの、その組み合わせは無限大にある。それぞれに最適な1,000種の答えを導くため、あらゆる患者に最良・最善な医療を提供するために、日進月歩で進化する最新の医療機器を導入し、新しい技術を学ぶ。先進的な医療への挑戦と、幅広い知識と圧倒的な臨床実績で、新見氏は自身の第一義である患者に寄り添う医療を実践しているのだ。

システムエンジニアを目指した後に医師になったから実現できた、電子カルテの開発。

兵庫県淡路島の内科医院の家に生まれた新見氏は、幼い頃から後継を期待されて育った。「小さい頃から機械が好きで、プラモデル、ラジコン、カメラに始まって、中学生の時にはポケットコンピューターにハマっていました。その後に当時まだ珍しかったマイクロコンピューターを買ってもらって、プログラミングを始め、ゲームを作って雑誌に投稿したり。なので、父の意に反してシステムエンジニアを目指していました。高校受験の頃、叔父から医師免許を持ったエンジニアになればいいとアドバイスをもらったこともあり、勧められた全寮制の医学部附属高校に進学しました。マイクロコンピューターを寮に持ち込んだことで当時のあだ名はマイコンでした。ただその高校は同級生がほとんど医師の子供で、結局流されるようにエンジニアではなく医師に(笑)。でも最終的に、父と同じ内科ではなく、機械やITの知識を生かせる眼科を専攻しました。最新の機器が次々開発されるということもあってか、眼科医は機械好きが多いですね。それと、父はある種カリスマ的な医師だったので、父を越えるには父と違うことをしなければ、という思いもありました」。



かくして誕生した、プログラミング技術を持つ機械大好き眼科ドクター。まずは、現在全国の大学病院の7割が導入するに至った「電子ファイリングシステムClaio眼科版」と次世代電子カルテ「診療記事記載システムC-Note」の開発において、医師とIT技術者の両輪を持つ強みを存分に発揮した。「電子カルテを作るシステム会社のプログラマーは、医療の実態を知りません。そして医師や医療関係者はITで何をできるかが分からない。私はその両方を知っていたから、実現できたのだと思います。眼科特有の課題かもしれませんが、それまでの電子カルテでは対応できない部分がどうしても多くて。プログラマーにとっての開発設計図となるフローチャートを私が考えて、それを形にしてもらいました」。



近い将来の医師不足が懸念される中、医療におけるICT活用、AI技術による業務効率化は、貴重な医師の時間確保のためにも、強く求められる開発分野だ。医師として思い描く新たなアイデア。そして医療現場と技術者との橋渡し役。新見氏に期待される役割は少なくない。

まだ3合目。10年以内に実現したい、電子メガネが一般化する未来。

「研修医として大学にいた時、ちょうどバーチャルリアリティという言葉が出てきた頃で、3D映像の研究をしていました。電子メガネの構想はその頃思いついたので、もう20年。あと10年のうちには実用化したいと思っています」。

電子メガネとは、自分の目で見る視界と同じ3D映像を高精度カメラが捉え、メガネを通してその映像を見ることができる電子デバイスだ。たとえば、望遠鏡のように遠くを見ることも、顕微鏡のように近くを拡大することも、暗視カメラのように暗いところを可視化することもできる。まるでSF映画のような話だが、新見氏は実際に私財を投じていくつかの試作機を完成させており、実用化に向けて大手メーカーとの開発プロジェクトを準備中だ。



「人間の眼がなぜ2つあるかというと、左右の視差により距離感を測るためです。近くを見ると視差は大きく、遠くを見ると視差は小さい。その視差の違いで距離を判断する。この視差を再現したのが3D技術です。3Dは医療分野でも応用が進んできていて、たとえば以前なら手術中に顕微鏡を覗いていたところも、3Dカメラで映した映像を大きなモニターに表示できるようになっています。今の電子デバイスは、スマホのカメラでも人間の網膜以上の解像度になっていますし、ARやVR技術の進化でビューワーの解像度も上がって、人間の目では見えない暗さや明るさの中でも映像として捉える技術があります。電子メガネは、それらの技術の進化系ですね。分かりやすく言うと、VRゲームをする時のヘッドマウントディスプレイの進化系のようなイメージです。医療用もですが、一般での実用化まで10年以内に到達したいと思っています」。



電子メガネの実用化は、新見氏の遠くない未来の目標だ。一人ひとりの患者に向き合い、それぞれが望む生き方を本気で実現したいと医療に臨む姿勢が、その想いを後押しするのだろう。新見氏のアイデアと情熱が私たちの視界を変える日は、それほど遠い話ではなさそうだ。

FAVORITE ITEM

新見先生の愛用アイテム

タレックス光学工業株式会社

TALEXの『偏光レンズ』

TALEXというレンズで、東大阪にある会社の職人さんがまさに職人技で作っているハンドメイドの偏光フィルターです。光の乱反射をカットしてくれるだけでなく、偏光レンズのスリットによるピンホール効果で見え方が向上し、非常にクリアな視野が確保される。より良い見え方を追求する眼科医にとって押さえておきたい愛用品の一つです。

https://talex.co.jp/