アツイシャ

医師兼IT社長が挑む、人生100歳時代の医師の使命。

【PROFILE】

医師・医学博士
メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO
/石見 陽

1999年信州大学医学部卒業。同年、東京女子医科大学病院循環器内科に入局。大学院で血管再生医学を研究し、医学博士を取得。医師としての勤務と並行して2004年12月に株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)を設立。2007年8月に医師専用コミュニティサイト「Next Doctors」(現「MedPeer」)を開始し、2014年6月には史上初の現役医師兼経営者として東証マザーズに上場。 祖父が開業医の医師家系に育ち、先に医学部へ進学した実兄を見て、高校2年時に医師を志す。人体の重要臓器である心臓を治せる医師を目指し、循環器内科を専攻した。

医師と医師、そして医師と社会をつなぐ。

医師専用コミュニティサイト「MedPeer」には、医師同士でしか話せない疾患の情報や薬剤の処方実感に関する投稿など、医師の臨床をサポートする多様な情報が集結している。「MedPeer」は医師の集合知による医療の質的向上を目指し、石見氏が2007年にスタートした医師専用コミュニティサイトで、国内医師の3人に1人、10万人以上が参加している。

石見氏が起業したのは、東京女子医科大学循環器内科勤務中の2004年末。当時、医療訴訟が過去最高数となり、連日マスコミが医療訴訟について報道するなど、国民の医療への不信感は極限まで高まっていた。一方、現場では、多くの医師が強い使命感と高いモチベーションで、毎日朝から深夜まで、休まずに患者からの信頼と期待に応えている。石見氏自身もその一人だった。医療訴訟についての偏った情報が繰り返し報道されることは、病院への不信感をより高め、正しい医療知識の浸透や医療機関でのコミュニケーションに影響する。この悪循環を解決すべき課題と考え、石見氏は行動を起こした。

「ほとんどの医師は報道とは違うわけです。でも、患者さんは疑心暗鬼でやって来る。あまり知られていないと思いますが、医師一人を育成するには1億円かかるんです。税金から1億円かけて、人命や健康のために尽力する医師を育てたのに、その医師や病院への不信感を募らせるような流れは、どう考えても健全ではない。なんとかしたいと思いました」

現場の医師一人ひとりの技術や知識を高めるため、医師同士でしか共有できない悩みや症例を話し合うため、そしてそこで集めた現場の医師の声、正しい医療知識や見解を社会に発信するために2007年にスタートしたのが「Next Doctors(現MedPeer)」だ。

「当時流行り始めていたSNSの医師限定版があって、医師の声を集められれば、自分の考えが医師たちの中でも普通なのか外れているのかが分かると思いました。それがスタートです。最初はただの掲示板から始まったMedPeerも、今では様々な目的のツールとして完成度が高まってきています。たとえば、薬の口コミ共有やエキスパート医師への症例相談、論文検索などの他、社会に対しても、何かの医療問題について会員医師にアンケートをとり、数千人の回答を得て、その結果をマスメディアに発信しています」。国内の1/3の医師がMedPeerの会員であり、それはまさに現場の医師の意見と言える。コメンテーター1人の言葉よりも信頼に値する情報になりえるだろう。そして、正しい医療知識や病院情報の浸透に必要なのは、継続発信だと石見氏は言う。「医師の常識が世間の非常識ということは確かにありますし、逆も然り。その差を埋めるのがMedPeerの役割です。でも、単発の動きだけで解決はしない。大事なことは何度でも言い続けないと、非常識と常識の溝を埋めることは難しい。特に病気や病院のことって、今健康な人の記憶には残らないんですよね」

予防、未病、治療、終末期。医師の仕事は、その全て。

少子高齢化は言うまでもない日本の社会問題だ。誰もがそう思ってはいるが、どのくらい自分事として捉えられているだろうか。2060年代には1人の労働人口が1人の高齢者を支える。それまでの段階的な変動を考えると、決して遠くない将来に多くの人の生活が変化することが予測できる。また、今10歳前後の子どもたちは半数以上が100歳より長寿になるという研究もある。これは、治療としての医療だけでなく、予防や未病への対応が進化する未来とも言える。

「これまでの医療は治療を追求してきました。治せる病気が非常に増えましたし、IPS細胞のような夢のような治療法も出てきた。がんを完全治癒できる日も来るかもしれません。今後も治療の医療研究は重要です。ただそれと同時に、高齢者が健康に生きるための予防と未病への対策、そして人生の終焉である終末期についても、医師の仕事だと思っています」。石見氏は、高齢化社会への対応で注目されている予防と未病の分野でも、すでに事業を展開している。

医師へのオンライン健康相談サービス「first call」は、小児科、産婦人科、精神科から外科、がん診療科まで、様々な診療科目の医師にオンラインでのチャットやTV電話で直接相談できるサービスだ。たとえば、初めての症状で何科の病院に行けばいいのかわからない時や、重い症状でもない段階で病院を受診するのは気が引けてしまう時、最近の親の言動が認知症なのではないかと心配だが本人を病院へは連れて行きにくい場合など、自身や家族のことを気軽にオンラインで専門医に相談することができる。軽い症状のうちに対処することで、病気の発症や重症化を防ぐ未病への対応であり、病院へ足を運ぶ心理的なハードルを下げるクッションの役割を果たしてくれる。

管理栄養士が食生活をコーディネートするサービス「ダイエットプラス」は、石見氏の予防医学の見知から、2016年に運営会社を子会社として迎えた。「病気にならないためにはどうすべきか。予防医学において、食事は非常に重要な因子になります。MedPeerの医師会員への調査でも、生活習慣病の予防と治療において最も重要なものとして、6割の医師が「食事」だと答えています。加えて、9割の医師が管理栄養士との連携が必要だと回答しました。なので、管理栄養士のプラットフォームを運営して、食事による健康増進のための事業を進めています。

そして、終末期医療への対応は、経営者としてのサービス展開はもちろん、医師としての石見氏の注目分野でもある。

「地域で見守るという考え方が日本にはありますよね。厚労省の概念では地域包括ケアシステムと言うのですが、訪問診療も含めて、病院、医療、ヘルスケアというジャンルが、それぞれの地域でもっと身近な生活に溶け込んでいってほしい。地域包括ケアは、街づくりにつながります。誕生から人生の終焉までをケアする中で、医療ができること、医師の担うべき仕事は、少なくないと思います」

石見氏の語る医師の仕事は、人が健康に生き、健康なまま天命を全うするための支援だ。その手段が治療であり、予防であり、終末期医療である。だからこそ、医療や病院、医師という存在は、最後の砦のような特別なものではなく、生活の中の一部であってほしいと願っているのだ。石見氏の医師としての信念は、これからもメドピアのサービスとして具現化されていくだろう。

FAVORITE ITEM

石見先生の愛用アイテム

パテック フィリップ

腕時計

メドピアの上場の際に購入しました。それまで安い時計しか身に着けていなかったのですが、このころに改めて身を引き締める思いで購入し、医師としても経営者としても、身だしなみには気をつけています。この時計に出会った時、シンプルで品のある雰囲気に惹かれたのですが、実は腕に着けると自分にしか見えないところにダイヤがあるんです。この自分にしかわからないこだわりを感じられるデザインも気に入っています。